Sunday, November 16, 2014

第1-2話

中に一人だけリーダー格の男はヘブライ語の書籍を持っていたそうである。所謂、原書を持っていた位この道に通暁していたと言う事なのか。その男はヘブライ語の呪文らしきものを唱えていたと言う。 看守が「お前らこんな風に十文字を切る耶蘇教の連中ではないのか?」と声を掛けても睨み返されるだけであったと言う事である。 看守の中には「あのリーダーは昔死刑執行された髭面の新興宗教の教祖に似ていた!」と証言をしている者もいるが、未だにその男の画像を持っているメディアはなかった。一社だけ、画像はないがインタビュー記事が取れているところがあった。「ミバイト社」という小さな出版社であった。其処の取材記者は直接会った人間だが、それによると、あの死刑執行された髭面の男と比べるのは少々可愛そうと言う事であった。この男は検挙された大学の学生ではなく、70年代の全共闘運動の流れを汲む活動家でお坊っちゃま大学入学前にキリスト教の洗礼を受けていた人間らしい。その男はキリスト教徒であったが、矛盾を感じていたのだと言う。お坊っちゃま大全共闘運動に染まったものの大学を自主退学し新聞広告で職場を探し、糊口を凌いで来たが、キリスト教と全共闘の経験の狭間で、その男なりに思想的葛藤があったようである。就職、退職を繰り返す内に多少経済的、時間的に余裕を得た為、キリスト教で得ていた知識を若干生かしてユダヤ研究に活路を見出せるとの確信を得て、ヘブライ語から勉強する事にしたのだった。

第1話

20xx年某月某日某大学で学部再編反対運動に端を発する学生運動は学校側の機動隊導入で占拠学生を全て排除した。逮捕学生は全員黒ヘルメット黒ずくめであった。又全員の持ち物が旧約聖書を持っているという特徴があった。この大学、特にミッション系ではなく旧財閥系であったから指導者の男が外から入って組織化したと言う事であった。逮捕学生は留置されると留置房の壁に向かい、旧約聖書を手に取り声を出して読み出したのであった。それも全員が示し合わせた様に同じ箇所を読んでいたと看守の証言が得られた。看守は留置房から聞こえる声が「ハモっていた」と証言したため、同じ箇所読んでいた事が解ったということであった。留置房では留置者の共同行動は禁止されている為、看守は制止を計ったが、旧約聖書を手放そうとはしなかったと言う。